心の健康づくりは「現場」から (株)LifeHappiness 代表取締役 大川 晃司 インタビュー

メンタルヘルスコンサルタントを始めた経緯は?

東日本大震災がターニングポイントでした。当時私は大手建設会社の幹部職に就いており、被災地で全体を調整し、復旧させる工事に従事していました。
その状況化で「いち早く物流を復旧させなければ」という使命感に駆られて過労になり、心と体を大きく崩してしまいました。
不調になった私に対し、会社も様々なサポートをしてくれたのですが、私の状態とサポートの方法が嚙み合わず、休職することとなり、心が整うまで4年以上を要しました。

自分自身が治る過程で強く感じたのが、「心が健康でいられる職場環境の重要性」でした。
そこで職場を改善するための知識を探したところ「産業カウンセラー」の存在を知り、資格を取得しました。
そして、社内でメンタルヘルス対策を試みたのですが、事業場内スタッフには出来ない領域があることに気が付きました。

環境作りを組織の内部から行うと、「利害関係」「私的感情」などを含んだ多重関係を起こしてしまい、「困難なこと」と「限界があること」がわかりました。
そこで、外部専門機関になることを決意し、起業したのがスタートです。
実体験と事業場内限界を実感したからこそ、「従業員と心の健康に携わる現場スタッフに寄り添うメンタルヘルスコンサルタントでありたい。」そんな思いを大切にしています。

「心が健康でいられる環境作り」とは具体的に?

まずは、各職場での価値観のズレを見つけ、状況に応じて管理側や従業員側、または双方に研修などを行い、そのズレを軽減させることです。

例えば、大きな価値観のズレの要因としては、管理職と新入社員の年代とでは幼年期、青年期に受けた教育が全く違います。
昔は、「根性論」「組織論で言う体育会系」「躾(しつけ)としての正座・叱責など」「連帯責任」など
近年は、「ゆとり」「多様性」「体罰の禁止」「個性を伸ばす」などその時代ごとで教育環境や手法に変化が生じています。
職場で何かと生じる価値観ズレは、そんなところからきており、みなさんも実感しているのではないでしょうか。このように、どの企業にも共通するギャップもあれば、各企業の社風や業務内容による独自のズレもあります。
その時、その場、その状況に応じた支援をしていくことが、不調者を出さない近道だと私たちは考えます。心の負荷を減らすことは、体の不調も減らすことにも繋がっていきます。
また、既にある要因に取り組むことはもちろん、ストレス環境が発生しにくい企業体質を作って、摩擦を予防することも大切にしています。

従業員を大切にしている企業や企業を大切に思う従業員の方々にこそ、ぜひ心身ともに健康でいてほしい。私たちは皆さんの「働きやすさ」のために、心の健康をサポートし続けます。

「働きやすさ」とは、つまり何でしょう?

「働きやすさ」とは、つまり「生きやすさ」です。
他者から自分を見る「他人軸」ではなく、自分を軸にした心を持つことが生きやすさの鍵です。他者から自分を見ると、見えない常識などに縛られ心が固くなることがありますが、自分を軸にすると心が柔らかくなります。
現代は、「働き方改革」や「多様性」など大きな変化の中にあり、個を尊重する世の中だからこそ、一層自分を軸にした柔らかな心理状態であることで生きやすくなります。

そのために私自身では、心の柔軟体操として意識して行っていることがあります。
それは、様々な人と会って多様な考え方を知り、受け入れること。
職場や普段の交友関係など、いつもの人間関係では考えが偏るので、考え方の違う人に会うことで自分の偏りを解きほぐされ、より柔らかな気持ちになることができます。
これは、行動療法の一部で、小さな行動変容を行うことで、柔軟な心理になります。
また、心の柔軟性を保つために、映画を見て心ゆくまで泣く、料理に挑戦するなど、心の疲れを感じたら感受性を取り戻すようにしています。
これは、認知の歪みに気づくこと(考え方の偏りをほぐす)の認知療法の一種を取り入れています。
そのように、心理を学び続けていることも、心を柔らかくすることに役立っていると実感しています。

私たち「LifeHappiness」で行う従業員向け研修や一般セミナーでは、こういったストレスマネジメントやメンタルケア、ご自身で日常に役立つ心理の知識もお伝えしていきます。

生きやすくなってから、何か変わったことは?

実は、最近家族との関係性に変化がありました。息子が社会人になるに当たり、就職先が内定するまで口を挟まずに見守ることができたんです。
心の学びを始める前の自分だったら、心が固かったので自分の経験や価値観から不要なアドバイスをしていたと思います。
息子は、そんな心が柔らかくなった父親に何かを感じたのか、就職後の展望をじっくり話してくれて、親としては嬉しかったですね。

皆さんの生きやすさを支援する上で、私たちが大切にしている「いまここ」という考え方があります。
私が息子との関係性で実感したように、過去の物事にとらわれず、人は「いま」を意識することで、考え方や心の状態を変化することができます。

自分を取り巻く社会環境が柔軟な心の形成にも影響します。
これまでの組織的な量産やマニュアル主義という「過去」は終わり、働き方改革やリモートワーク、グローバル化など、個を尊重する「いま」があります。
誰もが自分らしくのびのびと「いまここ」を生きていい時代になってきたのですね。

産業カウンセラーの他にも資格があるそうですが?

メンタルヘルスコンサルタントは、複合的な知識を必要とするために、キャリアコンサルタント、心理相談員、メンタルヘルス法務主任者、SNSカウンセラーなど、その他いくつかの資格を取得しました。
しかし、取得しただけでは心理職の入り口に立ったに過ぎず、自己研鑽が大切だと思っています。
変化が激しい現代なので、常にアンテナを張って新しい情報を得て、正しい情報を選択する意識を持ち続けることで初めて、「いま」や「個」に対応したサービスが出来ると考えます。

茨城での展望は?

メンタルヘルス対策を取り入れる企業が増えていますが、県内では東京都内のコンサルタント会社に顧問委託をするケースが多いようです。
私たちは皆さんと信頼関係を築くことを大切にし、フットワークが軽い地域密着型のメンタルヘルス専門家として本当の意味で役立てるよう、水戸に拠点を置きました。
私自身茨城に生まれ茨城が好きです。
会社員時代に転勤で全国を回った経験から客観的な視点から、茨城の特色や県民性も見えるようになりました。
「茨城に寄り添う現場型のメンタルヘルスコンサルタント」として、地元の企業をひとつひとつ丁寧にサポートしていきたいです。

また、メンタルヘルスに興味がある人への発信源にもなりたいと思っています。
茨城での「心のよろず相談室」のようなコミュニティを作ってみたいですね。